公認会計士事務所・監査法人のAI活用ガイド|監査調書と資料の整理、契約書と議事録の読み込み、クライアントへの依頼と報告、研修とナレッジの共有を軽くする
上場会社と非上場会社の会計監査、学校法人や公益法人の監査、IPOの支援、財務デューデリジェンスなどを手がける中小の監査法人と公認会計士事務所向けに、監査調書と資料の整理、契約書と議事録の読み込み、クライアントへの資料依頼と報告、研修とナレッジの共有を生成AIで軽くする方法をまとめた実務ガイドです。監査意見と職業的専門家としての判断は会計士が持つという前提で解説します。
結論:公認会計士事務所・監査法人の生成AI活用は「監査調書と資料の整理」「契約書と議事録の読み込み」「クライアントへの依頼と報告、研修とナレッジの共有」の3つが効きどころです。この仕事の特徴は、決算期に作業が集中し、限られた人数で多くのクライアントを担当しながら、証憑、契約書、議事録、稟議書といった大量の資料を読み込み、手続きの結果を調書に残し、品質管理の審査に耐える記録を整える必要があるという点にあります。人手不足と若手の育成、品質管理の要求の高まりが重なり、資料の読み込みと調書の整理に時間を取られて、判断と対話に使う時間が足りなくなっています。監査意見と重要な判断と職業的懐疑心は会計士が守り、その周りの資料の整理、読み込みの下準備、依頼と報告の文書、研修の資料の下書きを圧縮するのが本記事の狙いです。
リスクの評価、手続きの設計、証拠の十分性と適切性の判断、重要な虚偽表示の有無の評価、監査意見の形成、独立性の判断は、会計士と監査法人の責任の領域であり、AIの出力で代替できません。本記事が扱うのは、資料の整理と要約の下書き、読み込みの論点の洗い出し、依頼と報告の文書の型づくり、研修とナレッジの整形に限ります。
AIで変わる仕事の全体像
- 調書: 手続きの結果の記録の整形、調書の体裁の統一、レビューの指摘の整理
- 資料の読み込み: 契約書の重要な条項の抜き出し、取締役会議事録の論点の洗い出し、規程類の比較
- データ: 仕訳データの抽出と集計、分析的手続きの下準備、表の突合
- 依頼と報告: クライアントへの資料依頼の一覧、質問の文書、マネジメントレターの下書き
- アドバイザリー: IPOの課題の整理、デューデリジェンスの報告書の構成
- 人材: 若手の研修資料、過去の論点のナレッジ、事務所内の手順書
使い方1:監査調書と資料の整理
監査の現場では、クライアントから届いた証憑と明細を手続きごとに整理し、実施した内容と結果と結論を調書に記録する作業が大量に発生します。記録の書き方が担当者ごとに違うと、レビューで指摘が増え、手戻りの時間がかかります。手続きの種類ごとに調書の記載の型を決め、担当者のメモと作業の結果をAIで型に整える流れにすると、記録の質が揃い、レビューの時間が短くなります。紙で届く証憑と請求書はAI-OCRで読み取って一覧にすると、突合の下準備が早くなります(AI-OCRで紙の事務を自動化するガイド)。仕訳データの抽出、科目ごとの増減の集計、前期との比較といった分析的手続きの下準備は、表計算の操作をAIに手伝わせると、担当者が関数や集計の方法に悩む時間が減ります(Excel業務をAIで効率化するガイド)。ただし、抽出の条件と集計の結果が正しいかは、担当者が元のデータと照らして必ず確かめてください。AIの計算と要約には誤りが混ざることがあり、調書に残す前の確認は省けません(生成AIのハルシネーション対策ガイド)。レビューで受けた指摘を種類ごとに整理しておくと、同じ指摘の繰り返しが見え、若手の教育の材料になります。会計事務所と士業の事務所に共通するAI活用の全体の考え方は会計事務所・士業のAI活用ガイドでまとめています。
使い方2:契約書と議事録の読み込み
取締役会と株主総会の議事録、重要な契約書、稟議書、社内の規程は、監査の中で必ず読み込む資料ですが、量が多く、決算期には読むだけで時間が埋まります。AIに資料を読み込ませ、収益の認識に関わる条項、偶発債務や保証、関連当事者との取引、重要な後発事象につながりそうな記載を洗い出させると、会計士が重点的に読むべき箇所を早く絞り込めます。契約書の条項の抜き出しと比較の方法は契約書レビューのAI活用ガイドで整理しています。議事録から決議事項と論点を一覧にする作業も、読み込みの下準備として向いています(議事録作成のAI活用ガイド)。ここで大切なのは、AIの洗い出しは網羅を保証しないという前提です。AIが挙げなかった箇所に重要な記載がないとは言えず、読み込みの範囲と方法は手続きとして会計士が決め、AIの出力は補助として扱ってください。財務デューデリジェンスやM&Aの支援では、同じ読み込みの作業を短期間に大量にこなす必要があり、相手側の仲介会社の仕事の流れを知っておくと連携が進みます(M&A仲介のAI活用ガイド)。
使い方3:クライアントへの依頼と報告、研修とナレッジの共有
監査の往査の前には、クライアントに依頼する資料の一覧と提出の期限、質問の文書を用意し、往査の後には未回収の資料と追加の質問を伝える連絡が続きます。クライアントの経理の担当者は決算の作業と並行して対応しているため、依頼の意図と期限が明確で、形式の指定がわかりやすい依頼ほど回収が早くなります。依頼の一覧に、何のための資料か、どの形式で、いつまでに必要かを一行ずつ添える型にしておくと、問い合わせの往復が減ります。依頼の一覧と質問の文書を手続きごとの型にしておき、クライアントごとの事情だけを差し込む運用にすると、準備の時間が短くなり、依頼の漏れも減ります。マネジメントレターや内部統制の改善の提案は、発見事項、リスク、改善の方向の型で下書きを作り、会計士が内容を確かめて仕上げる分担が現実的で、文書の構成の考え方は提案書作成のAI活用ガイドが参考になります。中小企業のクライアントを税務の面から支える事務所と連携する場合は、税理士事務所のAI活用ガイドで相手側の仕事の流れを押さえておくと話が早くなります。人材の面では、若手の研修資料、過去の論点と判断の記録、事務所内の手順を整理しておくと、繁忙期の立ち上がりが早くなります。研修の資料づくりは新人教育のAI活用ガイド、手順書の整備は業務マニュアル・手順書のAI作成ガイドの型で進められます。事務所としてAIを使う範囲とルールは文書にし、品質管理の方針と整合させておくことを勧めます(生成AI社内ガイドラインの作り方)。
AIに任せる仕事と人が守る仕事の分担表
| 場面 | AIに任せてよい | 人が最終確認・判断する |
|---|---|---|
| 調書 | 記録の整形・体裁の統一・指摘の整理 | 手続きの結論・証拠の十分性 |
| 資料の読み込み | 条項と論点の洗い出し・一覧化 | 読み込みの範囲・会計処理の判断 |
| データ | 抽出と集計の操作・比較表の作成 | 分析の結果の評価・追加手続きの判断 |
| 依頼と報告 | 依頼の一覧と質問の型・報告の下書き | 指摘の内容・クライアントへの伝え方 |
| 人材 | 研修資料と手順書の整形 | 論点の判断の正しさ・育成の方針 |
監査意見と職業的専門家としての判断は会計士が守るものです。AIは下書きと整形と型の仕事に徹します。
注意点:クライアントの情報を外部に出さない、個人のアカウントでの利用を止める
この仕事で最も注意すべきは、クライアントの財務情報、未公表の決算、契約の内容、M&Aの情報といった、守秘義務の対象でインサイダー取引にも関わりうる情報を、外部の生成AIサービスに入力してしまうことです。入力した情報が学習に使われない契約と設定のツールを事務所として選び、使ってよいツールと入力してよい情報の範囲を明文化してください。線引きの考え方は生成AIのセキュリティ対策ガイドにまとめています。繁忙期に若手が個人のアカウントで資料を要約させるといった、事務所が把握していない利用が起きやすく、禁止するだけでなく安全に使える環境を先に用意することが実効的です(シャドーAI対策のガイド)。
よくある質問
Q. AIの出力を監査証拠として使えますか?
A. AIの出力そのものは監査証拠にはなりません。資料の整理と論点の洗い出しの補助として使い、証拠は元の資料と手続きの結果に基づいて会計士が評価してください。AIを使った手順は調書にも記録しておくと、レビューと検査で説明しやすくなります。
Q. 守秘義務との関係で、そもそも使ってよいのですか?
A. 入力した情報が学習に使われず、保存と閲覧の範囲が管理できる契約のツールを選び、事務所のルールで入力の範囲を決めれば、多くの事務所で使われ始めています。クライアントとの契約の条項も確認してください。
Q. 費用はどのくらい見ればよいですか?
A. パートナー、現場の責任者、若手の代表で有料プラン3〜5席から始められます。考え方はAI導入の費用の考え方をご覧ください。
Q. 何から始めるべきですか?
A. 調書の記載の型と、議事録と契約書の読み込みの下準備です。前者はレビューの手戻りを減らし、後者は繁忙期の読み込みの時間を短くします。次に資料依頼の型と、研修とナレッジの整理に進んでください。
AITECHは、決算期に集中する監査の作業と品質管理と若手の育成を限られた人数で回し、守秘義務に厳格さが求められる監査法人と公認会計士事務所の相談窓口です。まずは調書と資料の読み込みの型づくりからご相談ください。

